血統を語るテクスト。
吉沢譲治氏の『競馬の血統学(NHK出版)』を久々に読み返している。8頭の世界的名馬をめぐる物語からサラブレッドの血の進化と限界について考察を重ね、1998年の馬事文化賞を受賞した名著だ。
海外の競馬や活躍馬の血統を知る手段が限られ、優駿や競馬ブックの海外情報コーナーを読むのが楽しみだった20年近く前、優駿誌上で国内重賞ウイナーの血統解説をしているのが吉沢氏だった。その頃から彼の血統に関わる文章に私は好感を持っていた。
血統を語るテクストは意外と難しい。例えば配合を解説しようとすれば、その性格上どうしても馬名や独自の用語、ロジックの記述を重ねていくから、構成するのに技術が必要だ。また名馬物語的なものも、「読ませる」だけの文章力がないと、知識の顕示欲ばかりが鼻につく拙文の愚に陥ることとなる。(←もちろん自戒を込めて言っている)
血統に関する造詣の深さ以上に、文章を書くスキル(表現力・語彙力・構想力など)が、血統テクストのよしあしを決定付ける要素とさえ言えるかもしれない。
吉沢氏はその点、博識と見識の深さを感じさせながらも決して不遜な物言いをしないし、表現は明確で自己満足の迷宮に入ることもない。それに個人的には
「(近親繁殖の繰り返しは)ケーキのクリームに砂糖をこれでもかと放り込む作業」
といった表現もわりと好きだ。
ずぼらな自分は8代遡って配合を解説するような境地まで達せられそうもないが、吉沢氏のような肩に力の入っていないテクストを書けるようになりたいと思っている。
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