ガーネットは再び輝くか
先日の昼さがり、ビル街から一歩入った裏通りでざくろの木をみつけた。熟れて落ちそうな果実をひとつ失敬してみると、赤い果肉は甘酸っぱく、素朴で懐かしい味だった。
その色と形状に由来するのであろうか、柘榴石(ざくろ石)という和名をもつ鉱物群が1月の誕生石ガーネットだ。
転じて競馬界で輝きを放った「ガーネット」といえば、メイショウサムソンの4代母であり、牝馬ながらに天皇賞と有馬記念を勝った名牝ということになる。
未開の地・岩手山麓に開墾された小岩井農場が、軍馬の資質向上という国策と、三菱財閥の大資本をバックに、サラブレッドの生産を開始したのは明治40年のこと。
この年、イギリスを中心にヨーロッパから輸入した繁殖牝馬たちが後に「小岩井牝系」と呼ばれる牝系の祖となるわけだが、その中の1頭に*フロリースカップがいる。フロリースカップ系は戦後、ガーネット(後述)、コダマ(天皇賞・有馬記念)、カツラノハイセイコ(ダービー・天皇賞)、シスタートウショウ(桜花賞)、ニホンピロウイナー(マイルCS連覇)、スペシャルウィーク(JC・ダービー)などの活躍馬を送り出して幹を大きく広げた。
昭和23年、オーナーブリーダー畑江五郎氏が抑留先のソ連から帰国すると、自身の牧場は農地解放により失われてしまっていた。当然愛馬も散り散りとなったが、競馬への情熱を失わなかった畑江氏は戦後の混乱の中、かつて所有していたフロラヴァースの仔・サンキストを探し出す。フロラヴァースはかつて小岩井農場から導入したフロリースカップ系の牝馬で、非常に愛着を持っていたようだ。そのサンキストにトサミドリ(皐月賞・菊花賞/無敗の3冠馬セントライトの半弟)を配合し、産まれたのがガーネットだった。
資料をあたるとガーネットは非常に気性が難しい牝馬だったようで、デビュー当初から高い資質を認められつつ、出遅れ癖などが災いして5歳秋(現表記で4歳秋)まで重賞を勝つことができなかった。そして昭和34年天皇賞、伊藤竹男騎手に乗り替わったガーネットは力を余すことなく発揮し、オーテモンとの叩きあいを制して初戴冠。推薦で駒を進めた不良馬場の有馬記念でも、伊藤騎手の奇策(直線で馬場の良い外ラチ沿いを強襲)で見事勝利を収めて引退した。
繁殖に入ったガーネットの枝からは、ポレール(中山大障害)やアサクサスケール(エリ杯2着)などが出ているが、フロリースカップの分岐として地味な印象は拭えなかった。しかし在来牝系らしいたくましさは決して失われてはおらず、2006年にメイショウサムソンがGⅠ勝利という新たな輝きをこの系統にもたらした。ちなみに今回の天皇賞出走馬で、戦前に輸入された牝馬を祖とするのはメイショウサムソンだけだ。
春の天皇賞は*フロリースカップ輸入100年の節目をサムソンが飾ったが、秋の盾を臨むにあたっては、ずっとコンビを組んできた石橋騎手からの乗り代わりもポイントだろう。
サムソンの力の源泉が苦労人・石橋騎手との「変わりのない愛情」だとすれば、乗り代わりによってその力を失うのか。それとも、仲が良いという石橋騎手と武豊騎手の「友愛」が勝利を手繰り寄せるのか。
「変わりのない愛情」も「友愛」も、ざくろ石=ガーネットの石言葉なのである。
<牝系概観>
*フロリースカップ (牝 1904 Florizel)
第四フロリースカップ (牝 1912 *インタグリオー)
フロリスト (牝 1919 *ガロン)
第弐フロリスト (牝 1927 *ラシカツター)
フロラヴァース (牝 1936 *シアンモア)
サンキスト (牝 1944 *ミンドアー)
ガーネット (牝 1955 トサミドリ)
ガーネット (牝 1955 トサミドリ) 天皇賞・秋、有馬記念
|テシオ (牝 1964 *ティエポロ)
| →メジロ牧場クーリッジ系の系譜(メジロマイヤーなど)
|ケープルビー(牝 1969 *ムーティエ)
| →エイシンウイザード、トーホウドリームら
|ヒダクイン (牝 1971 *サミーデイヴィス)
| シークイン (牝 1981 *パーソロン)
| ポレール (牡 1991 *エブロス)中山大障害(春・秋)
|エール (牝 1972 *フォルティノ)
|アサクサスケール (牝 1982 *パーソロン)エリザベス女王杯2着
|ウイルプリンセス(牝 1983 *サンプリンス)
|ノーザンプリンセス (牝 1991 *ノーザンテースト)七夕賞3着
|マイヴィヴィアン (牝 1997 *ダンシングブレーヴ)未勝利
メイショウサムソン (牡 2003 *オペラハウス)現役
皐月賞、日本ダービー、天皇賞(春)
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