遺された宝石箱
1976年に設立された建材会社の新興産業は、CMで有名となった「さいでりあ」を看板商品として住宅リフォーム業で急成長を遂げた。しかし強引な営業手法が社会的な批判を集め、競争相手も増えるなど急速に経営環境は悪化し、1996年度には約500億円あった売上高は2002年3月期170億円弱にまで落ち込む。そして2003年1月15日、2度目の不渡りを出して事実上倒産に追い込まれた。
社長の安田修氏は2001年ころから所有馬を売却し馬主からも撤退。以降、競馬場で「シンコウ」の冠名馬がデビューすることはなかった。
かつてシンコウ軍団の生産拠点として設立されたシンコーファームはその後「新興」からも完全に独立し、一部をダーレーに売却するなど規模を縮小しつつもマーケットブリーダーとして存続している。
このシンコーファームは、少数ながら精鋭の繁殖牝馬が飼養されている(いた)ので、その一端をあげてみる。上段が現役の繁殖、下段がかつて在籍した繁殖である。
シンコウラブリイ | マイルCSなど重賞6勝 産駒にロードクロノス、トレジャー | ||
サラトガデュー | ベルデームS-G1、ガゼルH-G1 | ||
ピンクタートル | ヴェルメイユ賞G1 2着 産駒にレディパステル(オークス) | ||
シンコウノビー | 祖母が名繁殖Where you lead 近親に*ウォーニング、*コマンダーインチーフ | ||
シンコウイマージン | 叔母にSerena's Song(サンタアニタオークスなどG1を11勝) | ||
シンコウエルメス | 兄に*ジェネラス(英愛ダービーG1) 姉Imagine(英オークス、英1000ギニーG1) | ||
ハイドロカリド | 姉に Coup de Genie(モルニ賞G1) 近親*バゴ 産駒シンコウカリド(セントライト記念) | ||
メイプルジンスキー | アラバマS-G1、モンマスオークス-G1 NY牝馬3冠Sky Beautyの母 | ||
エクスペダイト | 叔父にYouth(仏ダービーG1)、ミシシッピアン(仏最優秀2歳牡馬・輸入種牡馬) | ||
アクチンアグリー | ナリタブライアン、ビワハヤヒデ、ファレノプシスらのPacific Princess 系 |
こうしてみると錚々たるメンバーで、社台クラスの規模ならともかく、年間の生産が10頭前後の生産牧場としては異彩を放っている。もちろん現役時に華々しい成績を残した牝馬ばかりを揃えれば成功するほど競走馬の生産は簡単ではないが、数よりも質でというわかりやすい理念は一貫していた。
この中でも血統的な裏づけもあり大きな価値を見出されていた*ハイドロカリドと*メイプルジンスキーは引く手あまただったろう。2000年に繁殖牝馬として輸出され(前者がイギリス、後者がアメリカ)ている。
勝負服の黒は、新興産業の隆盛と倒産に人生を翻弄された人々にとって「暗転」「闇」を象徴する色ということになる。
他方、雨に煙るマイルCSを快勝した直後にシンコウラブリイの身を引かせた陣営の潔さに感銘を受けた自分にとっては、鮮やかな想い出として心に刻まれている「黒一色」なのだ。
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