速さを継ぐ者
自身の成績に見るものがなくとも、兄が名馬あるいは名種牡馬という血統的相似への期待によって種牡馬になるというケースは少なくない。多くは成功と言いがたい結果になるのだが、「ダメ元」的なリスクの低さと比較して、Sadler's Wellsの弟Fairy kingのようなリターンの大きい成功例もあったりする。
昨年の年度代表馬・アドマイヤムーンの弟であるSabmykaaは、全弟ではないとはいえ、同じ文脈でのスタッドインである。
Sabmykaaはアドマイヤムーンの2歳下(05年産)で、父はサクラバクシンオー。ノーザンファームで生まれた鹿毛の牡馬は2006年のセレクトセールに上場されて、ダーレー・ジャパン(株)が1億800万円で落札した。これは同セール1歳馬では5番目の落札価格になったが、自身は1,680万だったムーンの活躍が導いた値段ということだろう。06年産の*フレンチデピュティ産駒はさらに高騰し2億6250万である(いずれも税込み価格)。
翌年1月、アメリカに輸出されたSabmykaaだが、骨折により競走馬としてのデビューは断念せざるを得なかったという事情のようだ。海を渡ったほぼ1年後の今年1月、今度はKeeneland January Horses of All Ages Saleに上場されて$30000で落札された。購入者(Vogue, Inc)は最初から種牡馬として考えていたのだろう、さっそく新ひだか町のアロースタッドで供用予定というニュースが流れている。
そしてアナウンスされたこのSabmykaaの種付け料が100万円(受胎確認後11月末支払)、150万円(産駒誕生後1カ月以内支払)という。同じバクシンオー産駒でG1ウイナーのショウナンカンプの種付け料が初年度から50万→30万→20万という推移であり、またアロースタッドでも実績のあるタイキシャトル(受胎確認350万)やアジュディケーティング(同150万)は別として、ツルマルボーイやサニーブライアン、バランスオブゲームら30~50万円の層よりも上の価格設定である(07年の数字)。いくら血統的魅力があるとは言っても、未出走馬にこの数字は強気過ぎないかい?というのが素人の率直な感想だ。
とは言え、バクシンオーの後継という意味で言えば期待はある。バクシンオーは仔に自身のスピードを素直に伝えて成功しているサイアーランク上位の常連だ。しかしシーイズトウショウを筆頭に獲得賞金1億円を超えている産駒が16頭もいる(20年2月現在)反面、平地G1を勝ったのは前出のショウナンカンプのみで、アベレージは高いがホームランに欠けるタイプ。この結果後継には恵まれておらず、頼みの綱のカンプも昨年の種付け頭数が9頭という何とも心もとない状況に陥っている。
どの程度生産の現場でニーズがあるのか、正直フタを開けてみないとわからない。
ただ、生粋スプリンターであるバクシンオーの「速さ」をこのSabmykaaが期待されているのだとすれば、”オーストラリアの弾丸”*スニッツェルが、馬インフルエンザ渦の影響によりシャトル先から日本に帰国できなくなったというニュースは、わずかながら追い風になるのかもしれない・・などとふと思ってみたりする。
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