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ユグドラシルの樹上に

1998年12月15日。
深夜、北海道門別。
突然の業火。
白い雪、赤い炎。
失われた19の命、そして生き延びた1つの命。

 

馬産地は現在、出産シーズンの最盛期を迎えている。
スペシャルウィークの生産牧場として知られる日高大洋牧場で生まれた幼駒の中に、母フレスベルグの牝馬がいる。父はアドマイヤマックス、母は初出産である。
フレスベルグは南関東の浦和競馬場で走り51戦10勝。B2までクラスを上げたが重賞の出走もなく、戦績だけで云えばごく平凡な牝馬だったから、日本土着の名牝系や海外の良血繁殖が揃う日高大洋牧場に繁殖として戻れなかったとしても何ら不思議ではない。
しかしフレスベルグは、「ただの牝馬」ではなかった。

1998年12月15日。
悲劇は突然やってきた。
日高大洋牧場を深夜襲った火災。
炎に包まれた厩舎は、為すすべなく焼け落ちた。
スペシャルウィークの半姉オースミキャンディ、Cosmah母系コスマーズリスト、アンバーシャダイやサクラバクシンオーを近親に持つディスコアンバー、名牝Fairy Bridgeの血を引いた*ワンド・・・・・
天に召された命は19頭、そのうち仔を宿していた牝馬も11頭いたという。

その真紅の業火から、ただ1頭助かった馬がいた。メジロウェイデンという。
祖母にメジロ黄金期の礎となった*アマゾンウォリアーを持つメジロウェイデンは、1戦0勝の現役生活を終えると日高大洋牧場で繁殖生活を送っていた。
ウェイデンを、あの日どのような奇跡が救ったのかは誰も知る由が無い。確かなことは、1つの命が生き延びたという事実である。
そして翌年春、ウェイデンはスタッフの献身的なケアによって*クリスタルグリッターズを父に持つ牝馬を無事出産した。その牝馬こそがフレスベルグ。だから、ただの牝馬ではない。

フレスベルグとは、北欧神話で世界樹ユグドラシルの頂上に止まっている大鷲のことだ。「死者を飲み込む者」という意味を持ち、死者の魂を運ぶのだとされる。

悲劇と奇跡。炎に倒れた仲間の魂を抱え、フレスベルグは新しい命を繋いでいくのだ。

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コメント

はじめまして・・
2008年3月27日のフレスベルグの記事を読んでいます
私は、フレスベルグのこと 存じていました
関西なので 浦和まではなかなか行くことは出来ず・・・
結果だけ見て いつも 応援していました
野口厩舎にファンレターを書いたこともあります
同期のシアリアスバイオが1年先に繁殖になって、、、
フレスベルグは・・・と心配していましたが
生まれ故郷で繁殖入りできました
このころ、日高大洋牧場にまたファンレターのようなものを書いて
「是非フレスベルグを繁殖に  フレスベルグは絶対牧場に恩返しをします」とあつかましいこと書いてました

フレスベルグは(有)松風 が馬主名になっていますね
おそらく 日高大洋牧場系の 馬主だと思います
売れなかったのか、売らなかったのか・・・

毎年 といっても 3回だけですが、出産の時に 安産お守りをフレスベルグに贈っています

ごちゃごちゃ書きましたが フレスベルグのことを氏っていらっしゃる方がいらして、こういう記事を書いていただいて、とってもうれしいです

突然 いろいろと 失礼しました ありがとうございます 

投稿: にゃんこ | 2010年8月27日 (金) 01時07分

2回目の投稿です
フレスベルグの仔 ラッシュバック 初勝利です!!
2011年3月7日 大井競馬 第4レース
ラッシュバック 優勝  上田健人騎手 11人気 逃げ切り
おめでとうございます すごくうれしいですね(v^ー゜)ヤッタネ!!
そして・・・
上田健人騎手 2009年デビューも約2年間 勝ちきれず 未勝利だったんですね 
上田騎手に 初勝利をプレゼントした ラッシュバック すばらしいです

でも、ほんと、フレスベルグのこと ブログに書いて下さってて うれしいし、、ありがとうございます

投稿: にゃんこ | 2011年4月 9日 (土) 21時42分

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