卓越との邂逅
現代の名工(げんだいのめいこう)とは、卓越した技能者表彰制度に基づき、厚生労働大臣によって表彰された卓越した技能者(卓越技能者)の通称である―Wikiより。
福永守は、現代の名工にも名を連ねる伝説的な装蹄師である。余所で匙を投げられた馬をその装蹄技術によって蘇らせる手腕に、「馬の神様」という呼称が付いている程だ。
福永守が手がけた1頭に、*セリーセクレタリーがいた。
*セリーセクレタリーは1994年生まれ。父Rahy×母Soul Dreamの牡馬で、叔父に名種牡馬Mt.Rivermoreがいる血統である。芹沢精一氏が1995年にアメリカのセールで購入し、当地での大きな故障を乗り越えて3歳夏の函館でデビューした。しかし2戦とも勝ち馬から3秒近く離された大敗で、その後福永装蹄師の下で立て直しを図るものの復帰は叶わず、翌年には乗馬用として福永師に引き取られることになった。
それから1年余の1998年12月13日。
益田競馬場第1レースに、*セリーセクレタリーの名が連ねられた。福永師とスタッフたちは、競走馬としてのセクレタリーを諦めずに師の本拠である広島で治療と調教を積み重ね、誰もが諦めた復活の場に彼を再び立たせたのだった。
結果は4馬身差の楽勝。賞金125,000円の小さな勝利はしかし、福永師とセクレタリーの苦闘の結晶だった。
それからはセクレタリーは益田で16連勝を含む18勝を挙げ、2001年6月の競走を最後に引退する。
さらに驚くべきことに、*セリーセクレタリーは広島の福永師の下で種牡馬となった。
初年度は2頭の産駒が生まれ、うち1頭は芹沢精一オーナーに買われてJRA入り。今週日曜の阪神新馬戦に出走する牝馬セリースピリットがそれである。
その後も05年は4頭、06年3頭と小規模ながら種付けを継続し、現在は北海道の武牧場で供用されている。
ハードクリスタル、ドルフィンボーイなども所有した芹沢精一オーナーも非常に競馬への愛情と血統に対する造詣が深い方だ。
セリザワ牧場と名づけられたオーナーのHPには、幼少時の三島競馬の思い出から馬主になるまでの紆余曲折、血統観や配合論、セリでの駆け引きなどなど、面白いコンテンツが満載である。
広島県産のサラブレッドが走る。福永師と芹沢オーナーの邂逅が生んだドラマである。
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