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対の先

北京オリンピックの競泳、ブレスト(平泳ぎ)100Mを獲った北島選手の泳ぎは見事の一言だった。肉体面あるいは技術面での鍛錬は言うまでもないことだろうが、それ以上に舌を巻いたのは、大一番で発揮された精神力の強さと戦略の巧みさである。

 

決勝を前にした北島陣営に楽観ムードはなかったはずだ。ダーレオーエン(ノルウェー)が泳ぐごとに自己ベストを更新して準決勝でも好タイムを計時。こういう勢いはバカにできないもので、まだ手の内のわかっているハンセンの方が組し易いというもの。追われる者の心理状態が泳ぎを狂わせ、後半失速するのでは・・・かつて水泳をかじった自分はそんな心配を覚えながら観戦した。

しかし決勝前半25Mの時点で私は唸った。北島のストロークに力みと焦りはなく、泳ぎは大きい。明らかに準決とは違う泳ぎだったからだ。やや遅れて折り返すも得意のターンでリードしたシーンでアタマに浮かんだのは「対の先」だった。

武道においては「先の先」「後の先」といった考え方がある。「先の先」というのは自分から先制攻撃を仕掛けることであり、また中国武術などでは相手を動かしておいてその隙を付く「後の先」がひとつのセオリーになっている。そしてもうひとつの「対の先」というのは、相手の力や動きを把握した上で同時に仕掛けつつ、一瞬早く攻撃を打ち込むという戦略である。

あれだけプレッシャーの掛かる場面で自己と他己たちを客観視し、平常心で前半を抑え、ターンで一気に主導権を握ると押し切る。紙一重も狂いが許されない戦略も見事、それを成し遂げる肝っ玉も見事。まるで武道の試合を見ているかのような、美しいレースだった。

「後の先」でふと思い出したのは、ディープインパクトが3着入線(後失格)した凱旋門賞。やや平常心を欠いたかのように先行するディープとそれを追うHurricane RunやShiroccoらの争いを、最後はRail Linkが後方から差し切ったあのレースは、典型的な「後の先」の勝ちパターンだった。

Rail Linkは現役続行したものの翌年は出走すらできず、今年からイギリスのBanstead Manor Studで種牡馬となっている。実績も人気もあるDanehill父系だし、3代母がDahliaの妹という筋が通った血統背景を持っていることから、一定の成功は期待できるのだろう。

ただし種牡馬の世界は「後の先」ではなく「先の先」が必勝である。Rail Link、Hurricane Run、Shirocco、そしてディープインパクト。あの日ロンシャンで鎬を削った彼らの、サイアーとしてのレースはどんな展開を見せるのだろうか。

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