地図にはない栄光
'09新種牡馬外伝 - ゼンノロブロイ
NHKの人気番組「プロジェクトX」にも取り上げられた人海戦術による住宅地図の作成や、地図情報の電子化などによって、地方の小さな出版社を上場企業にまで育て上げた大迫忍は、56歳で(株)ゼンリンの社長を退任した。同属経営を嫌った大迫は世襲を行わず財務畑の幹部が後任を引き継いでいる。
地元・九州経済界での人望も厚かった大迫はしかし、2005年6月18日、患っていた肝疾患により逝去した。馬主としても有名な大迫の最高傑作ゼンノロブロイがヨーク競馬場で走る2ヶ月前のことであった。
そのロブロイはいろいろな意味で「ちぐはぐな」馬である。
3歳クラシックから主役の一翼を担い、4歳秋は見事なG1トリプルを達成。5歳時にはインターナショナルS(G1)でも2着。重賞を5勝し生涯獲得賞金は10億円を突破するなど、能力の高さは疑うべくもない。
しかし一方で取りこぼしも多く、名勝負と謳われるようなパフォーマンスの鮮烈さには欠け、例えばネット上で検索してみても「私の名馬物語」的なテクストが殆どみつからない。
この地味さはロブロイのせいというより、「120%」を求めない藤澤流の仕上げではたまにある名馬のパターンで、*シンコウラブリイなども典型である。自分はキライではないが。
また既述のとおり5歳時のイギリス遠征を前に大迫忍オーナーが亡くなったり、2歳下にディープインパクトが登場して、「空駆ける馬」の引き立て役の1頭としてそのキャリアを終えざるを得なかったりと、どこか間の悪さが付きまとった面もあった。
種牡馬になってからも、2年目のシャトルの際には馬インフルエンザの影響で目的地のニュージーランドに入国できず、経由地のオーストラリアに留まって種付けをした。余談だが全弟のグランデグロリアも、2歳時にキーンランドのセールに上場するため渡米したが、何らかの理由でキャンセルとなったそうで、結局日本でデビューしている。
アイルランドの英雄の名を持ち、血統のルーツはアメリカに置き、日本とイギリスでレースを走り、オセアニアでも種付けしたワールドワイドなのに、飛行機が嫌いなんだそうだ。
そもそも「赤毛のロバート」ことロブ・ロイの名に由来するのに黒鹿毛であることからして、ちぐはぐであるが。
そんなロブロイの勲章のひとつが、年度代表馬のタイトルだ。初年度のフジキセキやタヤスツヨシを筆頭に牡牝や芝ダート、距離などのカテゴリーを越えてG1馬を量産した規格外サイアーのサンデーサイレンスであるが、実はJRAの年度代表馬には意外に縁が薄かった。サイレンススズカもスペシャルウィークもマンカフェも誰も獲れず、2004年のゼンノロブロイが実は、初のサンデー産駒年度代表馬なのだった。
さて、ロブロイは母がミスプロ系*マイニング産駒で、バレリーナH(7F)などの勝ち馬*ローミンレイチェル。サイレンススズカが殉死したため、母父にミスプロ系を持つサンデーの大物種牡馬はロブロイが初めとなる。
母系はさらにClever Trick、Olympia、Romanなどアメリカのスピード系が重ねられている。字面では距離伸びての不安を感じるが、母系が前に出ないタイプだけに自身は資質の高さで距離もこなした、という面もあったのだろう。産駒はダート短距離など父とは違ったジャンルの活躍馬も出そうだ。
ロブロイ仔には父やオーナーが手中に収められなかったクラシックや海外G1の期待がかかるが、成功を手に入れるための便利なナビなどはない。競馬に限らず。自分なりの地図をつくり、道標を見つけ、道を切り開いていく者だけに光が射すのだ。ですよね大迫オーナー?
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コメント
今年もよろしくお願いします。
面白いですね。自分はどうもコラム的な文章は苦手なので…。
これからも楽しみにしています。
投稿: Organa | 2009年1月 3日 (土) 17時54分