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愛すべき不合理

いちおう社会人でありながら、まったりを身上?とする自分は<あなたの潜在力を引き出す>とか<仕事ができる人の○×の習慣>的な、アクセルを踏み込む方向の本には食指が向かない。かといって人生訓系や自己啓発系はなぜか入り込めず、どうしてもネタや笑いの対象としてしか捉えられないからタチが悪い。

ビジネス書という分野で面白いなと思うのは、かつて心理学をかじったせいもあるのか、いつか触れた「その数学が戦略を決める」のような社会科学方面からのアプローチだ。先日本屋の店頭で目にしてつい買ってしまった「予想通りに不合理」(ダン・アリエリー著/早川書房)もそんな1冊だった。

従来の理論経済学とは一線を画し、人間の心理的側面から経済活動の現実に迫っていこうというのが行動経済学。本書はその行動経済学の様々な知見、特に”人の判断と行動はいかに不合理なものなのか”という点について考察を試みているのだが、データを構築するための実験やその解釈などが非常にユニークで、読んでいて飽きない。

調べてみると著者のダン・アリエリーは昨年、ノーベル賞のパロディであるイグ・ノーベル賞を受賞している。当の本人は至ってマジメ、しかしどこか笑ってしまうような、それでいて示唆に富むユニークな研究に贈られるのがイグ・ノーベル賞だが、アリエリーはプラセボ(偽薬)効果が<値段>という別の価値によって影響されることを実証した功績でこれを受賞した。本著にもその一連の仮定・実験・考察がわかりやすく収められている。

自分の普段の生活を振り返ってもても、まあ人間というものは「自分は冷静だ」などと思っていても案外と不合理な生き物だということを実感する。期間限定だとか無料サービスだとかいう売り文句には弱いし、興奮状態にあれば全く合理性を失ってしまうというのも耳がいたいところだ。

まあだからこそ人間は面白い存在ではあるのだが、いち消費者としてはこうした心理バイアスの存在を自覚して、賢くありたいなあなどとは思うところ。

ところでイグ・ノーベル賞は受賞一覧を見ていると本当に面白いね。
「もし人々が悔い改めない場合、どのくらいのアラバマ州住民が地獄に行くかを郡ごとに見積もったことに対して」(数学賞)
「ピカソとモネの絵画を見分けられるようにハトを訓練し、成功したことに対して」(心理学賞)
「検尿の際に患者がどのような容器を選ぶかについて、丹念に収集、分類、考察したことに対して」(医学賞)
あたりがお気に入り。機会があれば論文を読んでみたい。

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