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春の読書感想文

ドバイだったりクラシック前哨戦だったり、いろいろと競馬ネタもあったこの頃だが、どうもエントリに仕上げるだけの気分が乗らない。そんなわけで、最近読んだ本の中から、印象的だった本の感想などを。

「断る力」(勝間和代著・文春新書)

「八甲田山死の彷徨」(新田次郎著・新潮文庫)

2冊には関係どころか全くもって脈絡がないのはご愛嬌ということで。

  

「断る力」

気鋭の経済評論家で本屋でも著作が平積みされている勝間さん。どうも「キャリア志向バリバリで頭の良すぎる人」という近寄りがたいイメージを勝手に作っていて、これまで彼女の著作は読んでいなかった。その牽引力のあるタイトルと帯の写真!に惹かれて冷やかし半分で買ったが、良い意味で期待は裏切られた。

本書の中にも出てくる「アサーティブネス」。自分は職業柄、入門的なトレーニングを受けたり専門書を読んだこともあるのだが、まさに著者が言いたいことの根っこは、<自分も相手も尊重し、対等な立場で誠実に自己主張する>というアサーティブの重要性に他ならない。アサーティブな対人関係を気付けば、きちんと引き受ける/きちんと断ることが可能となり、それはすなわち「リターンマキシマイズな生き方」を実現することにつながっていく。

そしてそのためには、まず様々な方法を駆使してメタ的に自分を捉え、自己のあり方をしっかりと認識することが肝要だと指摘する。自分は客観的だなんて思っている人間に限って自分が見えていなかったり、あるいはネガティブな評価には怖くてアンテナを向けなかったり・・間違いなくそんな凡人の一人と自認する私には随分と耳の痛い部分ではあるのだ。

また「嫌われるリスクを割り切る」とか「私たちは自分の扱い方を他人に教えている」など、考え方のポイントを伝えるフレーズが非常に印象的だ。
断るテクニックといったハウツー本とは全く異なり、自分の軸を作る=自律的に考え行動することの大切さを、「断る」というキーワードを用いながら丁寧に論理展開した良書だ。

内容とは別に勝間さんに対しては、高度に自己覚知がなされていて言葉の使い方が巧みな、スマートな方という印象を持った。まあ、そもそもスペシャリティというより「味があるコモディティ」が理想な?自分にとっては、そもそも目指す道が違うという面はあるのだけれど、それでも、近寄りがたいという壁は随分と低いものとなったかな。

 

「八甲田山死の彷徨」

明治35年冬、厳寒の青森県八甲田山系において行軍中の陸軍200余名が遭難、その多くが凍死するという陰惨な事件が発生した。この史実を元に描かれた小説で、後に映画化されて有名となった。

40年近く前に発刊されたこの本を読んだのは、奥入瀬渓谷や酸ヶ湯温泉などを旅行で訪れたことがあり、あの夏の清廉な雰囲気と「死の彷徨」という言葉のギャップに異様な違和感を感じたからだ。

日露戦争の前夜という時代背景。まれに見る寒波が襲った気象条件。防寒に対する無知。そして指揮系統の混乱。幾重にも重なった負の要因は、八甲田に足を踏み入れた青森第5連隊を容赦なく襲う。

ある者は奇声を発して全裸となり凍死、ある者は昏倒するや二度と起き上がらない。川に飛び込んだ兵は「座ったような形となり、間もなく氷の皮膜に包まれて氷の地蔵になった。」
体感気温マイナス50度とも言われた猛吹雪の中で彷徨い、食料も睡眠も取れず、手足を凍傷に冒され、思考と体力を失った兵士が次々と命を落としていく。まさに白い地獄である。

気象に関するスペシャリストであり、かつ自らが登山家でもあった新田次郎は、余計な修飾を排した文体で冬山を描くが、しかしその淡々とした文筆は却って、読むものの心に生々しく惨状を突きつけるのだ。

軍隊というある種の閉鎖空間における集団心理や、自然の猛威に対する人間の無力さ。様々な教訓を含んだこの小説はまた、周到な準備と隊長のリーダーシップをもって反対方向から踏破に成功した弘前隊を対置することにより、組織論やリスクマネジメントという意味でも示唆に富んでいる。それらは遭難から100余年経った現在でも変わらず、我々にとって突きつけられた課題である。

両隊の交流を含めて著者の創作とされる部分もあり、純粋なノンフィクションとは言えない点はいたしかたなかろう。とはいえ大ヒットとなった(自分は生まれる前だけど)映画と共に悲惨な史実を後世に伝えるために果たした役割は大きい。時を置いてまた読んでみたいと思わされるところ。

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