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”It's not a problem”

伝統のイギリス1000ギニー。
有力馬の多くがラチ沿いでもがく中、先頭入線したのは伏兵のJacqueline Quest。*ロックオブジブラルタル産駒の彼女の頭上に輝いた栄光・・それはしかし、間もなく夢と消える。進路妨害を取られてSpecial Dutyが繰り上がり優勝となり、Jacqueline Questは2着降着となったのだった。

でも、あの悲しみに比べれば。あの慟哭に比べれば。

事件は1996年6月16日、ベルリン近交の街Mahlowで起こった。
イギリス人Noël Martinが友人を乗せて運転する車を、二人組の男が襲撃した。投げつけられたコンクリート片のひとつがフロントガラスを突き破って運転手に直撃。車は制御を失って道路脇の樹に衝突して大破した。

ジャマイカ生まれのMartinは、有色の肌を持つというだけでネオナチに襲われたのだ。犯人は5年と8年の禁錮となったが、決して反省の言葉はなかったという。

この事件で四肢麻痺となり、24時間の介護が必要となったMartin。そしてそんなMartinを支え続けた妻にも先立たれ、彼は命を自ら絶つという思いに駆られるようになるのだった。2007年にはバーミンガムから「死ぬために」ベルリンを訪れ、現在もスイスの自殺幇助団体Dignitasと「死の契約」を結んでいるとされる。

そんなMartinが亡き妻の名を授けたのが、Jacqueline Questである。それほどまでに思い入れのある牝馬が手に入れかけたクラシックホースの栄誉は、手のひらからするりと逃げていった。一部では厳しすぎるという意見も出る採決に、悲しみと怒りとが彼を揺さぶったに違いない。

しかし、彼は降着後のインタビューで言う。
「またいつか別(インタビュー)の機会があるでしょう。何かが失われたわけではないし、よくあることです」
「私はもっと多くの不運をくぐり抜けてきた。だから(降着は)それほどの問題じゃないんですよ」

あの悲しみと慟哭に比べれば。だからこそ言葉に出来る思いなのだろう。

Jacqueline Questが新たなる名誉を掴み取り、Martinに生きる喜びをもたらすことを、そっと願ってみたい。

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