美しき湖畔に眠れ
カナダ最大の都市であり金融の中心地でもあるトロントは、いわゆる五大湖の一つで「美しい水」を意味するオンタリオ湖に北西岸に位置する。そのトロントから、湖畔に沿って東へ401号線を進むと到達するのが、工業化が進みながらも未だ豊かな緑を残している街、オシャワだ。
そこは、競馬の歴史に名を深く深く刻む、ウインドフィールズ牧場があった場所でもある。
カナダの名生産者E.P.テイラーの足跡を辿るとすればそれは別のリソースを要するが、彼が世界の競馬界と馬産界に与えた莫大な影響というものは、ウインドフィールズで生産したNorthern DancerやNijinsky、Vice Regentらの名を上げれば何よりも雄弁に示されるだろう。
テイラーの死後、遺族によって引き継がれた牧場経営は次第に縮小され、最終的には2009年に閉場された。
かくして伝説となるべきウインドフィールズ牧場であったが、過日思いもよらぬところから話題に登っていた。
地元のメディア、トロント・スターが伝えるところによると、閉鎖されたウインドフィールズ牧場跡地は荒れ果て、かのNorthern Dancerを筆頭とするテイラーの名馬たちの墓は風に揺れる雑草の中に打ち捨てられているという。
そもそも墓地の周囲にはテイラーの遺族らによって、その功績を伝える記念館などを建築する計画が温められていたようだ。しかし牧場が存在した土地は現在、隣接するDurham Collegeおよび開発業者の手にわたっており、その一部分は今後オンタリオ工科大学へと所有権が移る予定だ。
オンタリオ工科大学の担当者は競馬ジャーナリストRay Paulickの取材に対して、
”we will maintain the gravesites, cutting grass, removing weeds, properly maintaining it, and showing the horses buried there the respect they deserve”
と答え、カナダの伝説を蔑ろにするつもりはないと表明している。とはいえ関係者の様々な思惑と利害が交差しているのは明白で、具体的な道筋は霧の中、というのが現在の状況と言ってよいのだろう。
種付け頭数インフレの現在からすれば、600頭余の生涯産駒というのは決して多くはない数字だが、その血を求める熾烈な争いを世界中で巻き起こし、東西南北を問わず勢力を広げ続けたNorthern Dancer。まだまだ決着をみそうにないレジェンドの後日談が、バッドニュースで終わらないと良いのだが。
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