Rossard その白き焔
デンマークは北欧の中でも小さな国だが、その国土には非常に豊かな自然が残り、街並みは目を奪われる美さをたたえ、人々は温かい。かつて冬にコペンハーゲンを訪れた際には、現地の方が親切で洗練されていることに、非常に感心した思い出があったりする国である。
さて、シルクプリマドンナの息子が流れ着いたそのデンマークは競馬の話題では殆ど耳にしない国だが、かつて国際舞台に名を知らしめた名牝がいた。その名をRossardという。
Rossardは1980年3月23日デンマーク生まれ。父はPharis系の内国産種牡馬Glacial、母はイギリスからの輸入馬Peas Blossom(その父はDjebel系Midsummer Night)だった。
途方も無い能力を秘めていたRossardはデビューするや国内に敵はなく、83年のデンマーク1000ギニーとオークスの2冠を楽勝。さらにダービーも勝利すると勢いそのままに隣国のスウェーデンへ遠征して、同国のオークス、ダービーすらもさらってしまったのだった。
さらに母国デンマークのセントレジャーも勝利しクラシック6冠を達成すると、オーナーはRossardをニューヨークに送り、アメリカに活躍の場を求めることになる。
緒戦のViolet Handicap(G3)で3着と足慣らしを済ませて挑んだのは、ベルモントのフラワーボウル招待H(G1)。ラフィット・ピンカイJrを鞍上にここを見事に勝利したRossardはおそらく、初めて北米重賞を制した北欧出身馬となった。
引退後アメリカで繁殖牝馬となった彼女は13頭の産駒を産んだものの、90年産のNureyevの牡駒がアイルランドで準重賞を勝ち、後にカリフォルニアで種牡馬入りした程度で、Rossardの名は歴史の中に陳列されるものと思われた。ところがストーリーはまだ終わらなかったのである。
01年にはカリフォリニアのサイアーランク172位というローカル種牡馬に過ぎなかったRossardの息子Unusual Heat。しかしそれから徐々に産駒が走りだすと年を追って順位を上げ、08年には遂に同州の過去最高獲得賞金でリーディングを奪取。ハリウッドダービー(G1)などを勝ったThe Usual Q.T.らの活躍で09年10年もその座を譲ることはなかった。
そして今年。産駒のAcclamationが過日のパシフィッククラシックを制して4つ目のG1を戴冠する活躍である。他馬の動向次第ではあるもののAcclamationは、この後のBCでも主役を張る位置にまで来ているのだ。
北欧の小国で生まれ育った白きRossardが灯した赤熱。
Unusual Heatの仔の活躍を目にするたび、その名とは裏腹な、12月のコペンハーゲンのと寒さを思い出す。そして市庁舎前で震えながら飲んだ、グリュッグ(ホットワイン)の暖かさを思い出す。
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