« いつか届くハガキ  | トップページ | リーコン引退に寄せて »

絶海に浮かぶ孤独と光

19世紀、アイルランド。何かを振り切るような覚悟で霧深い大西洋に出帆した船には、新天地アメリカへの希望と共に、故郷への深い惜別の念を抱えた移民たちの姿がある。やがて洋上には母国最後の面影となる小さな岩が姿を見せ、彼らの瞳は濡れた。

その岩礁Fastnet Rockは、だから「アイルランドの涙(Irland's Teardrop)」とも呼ばれるのだった。

そのFastnet Rockという名を授けられたDanehillの牡馬は、天賦のスピードに恵まれ、現役時代はライトニングS、オークレイプレートのG1勝ちを含めてオーストラリアで19戦6勝の成績を収めたスプリンターだった。

引退後にクールモアAUで種牡馬入りした後は、その速さに加えてオセアニアで猛威を振るう父系である点も追い風となり、多くの牝馬を集める人気種牡馬となる。

共用2年目の06年に194頭を集め、その後08年に248頭で最多種付種牡馬に。09年には272頭を記録して10年からはアイルランドにシャトル開始。11年には南北両半球あわせて364頭という数字を残している。

無論それだけの質量の牝馬を集めていれば活躍馬が出るのも当然ではある。初年度のIrish Lights(豪1000ギニー)を筆頭に、Rock 'N' Pop(新2000ギニー)、Mosheen(VRCオークス)、Rock Classic(豪2000ギニー)などで重賞馬を量産。今シーズンは無敗で1000ギニーを制したAtlantic Jewelという逸材を輩出した。

詳細に見てはないが、活躍馬の血統面を概観するとオセアニア血脈との相性の良さは感じるところ。

上に挙げたG1ホースのうち、母がアメリカンのIrish Lightsを除く4頭はいずれも母系にSir Tristramを持っていて、自身もSir Tristram持ちのRockと配合されてのインブリードになっている。またニューマーケットHを勝ったWantedはサートリはないが、これまたオセアニアに発展したLunchtime→SnippetsをBMSに引いている。

ところで、本物のFastnet Rockには2代目となる灯台が建設されて、この海域の安全航行に貢献している。現在は電化され、定期的な保守のために訪れる技術者以外はその岩礁は無人のままとなるが、かつては灯台守が来る日も来る日も、人力で光を送り続けていた。

14年の間灯台守を務めたDick O’Driscollが運動のために7階から命綱なしでロープを上下したときも、「グランドナショナルを跳ぶ馬のような」嵐の荒波が照灯部すら襲ったときも、独りだった。荒天で陸とを結ぶ船が出なければ、家族の誕生日を祝うことも出来なかった。

そんな時はどうするのか?彼は答える。
「何もできないよ。ゆっくりと階段を上がり、パンを焼くだけさ」

絶海の孤独が光を送り続けたのだった。

Fastnet Rockのアイルランドでの産駒デビューはこれから。灯台のそれのように、進むべき途を示す光を母国に届けることができるだろうか。

|

« いつか届くハガキ  | トップページ | リーコン引退に寄せて »

馬*海外」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/223066/53960527

この記事へのトラックバック一覧です: 絶海に浮かぶ孤独と光:

« いつか届くハガキ  | トップページ | リーコン引退に寄せて »