ダイヤモンドの輝き
死亡が報じられたダイヤモンドビコーについてぼんやりと想い出を手繰っていたら、ちょうど府中ではレッドセシリアが勝ち名乗りをあげていた。レッドセシリアは*サセッティにハーツクライだから、ダイヤモンドビコーの出自であるMy Bupersの牝系同士という意匠の配合だ。
My Bupers自身は競走馬としては凡庸な成績に終わったが、その初仔My Julietは24勝をあげた類まれなる能力を持った牝馬だった。特筆すべきはそのスピードで、4歳時には一つ下の牡馬2冠馬Bold ForbesをベルモントのヴォスバーグS(G1)で撃破し、同年のチャンピオンスプリンターにも輝いている。My Julietはペンシルベニア州のフィラデルフィアパーク競馬場を拠点に各地へと遠征しており、引退後は当地に彼女の名を冠したレース(My Juliet Stakes)が創設され、また競馬場内にはMy Juliet cafeが作られたそうだ。
My Julietのポテンシャルは87年生まれの産駒*ステラマドリッドにも受け継がれた。2歳時にメイトロンS、スピナウェイS、フリゼットSを勝ち、3歳でもエイコーンSを制してG1を4勝した同馬は、同期にGo for Wandという逸材がいたためタイトルには恵まれなかったものの、間違いなく世代のトップを張った1頭である。
*ステラマドリッドはアメリカで数年間繁殖生活を送った後に、社台ファームにより輸入される。*サンデーサイレンスとの間に生まれた98年産の牝馬は、同年のセレクトセールにおいて当時の当歳牝馬レコードとなる1億8,375万円で落札されて話題となった。これが後に藤澤厩舎で活躍するダイヤモンドビコーというわけだ。
ダイヤモンドビコーの詳しい戦績については他稿に譲る。全盛時の*ファインモーションに真正面から挑んだ2002年のエリザベス女王杯が無論この牝馬のキャリアハイなのだが、個人的なベストレースは同年春の中山牝馬Sだろうか。ティコティコタックやレディパステルといったG1馬を相手に5馬身差の完封劇、それはサンデーの爆発力とMy Julietの機動性がこれ以上なく美しく表現されたレースだったからだ。
ちなみに先のシンザン記念で3連勝となったミッキーアイルは、*ステラマドリッドが輸入前に産んだIsle de Franceの孫あたる。この牝系の勢いは今年のクラシックでも注視しないわけにいかないだろう。
現役時にMy Julietがベースとしていたフィラデルフィアパークはかつて、Keystone(キーストーン)競馬場という名だった。
そもそもKeystoneとは建築物のアーチ頂上部に配される「くさび石」のことであり、それは転じて「物事の要、中心となる要素」を意味する。地勢上の要衝に位置するペンシルベニア州はだから、Keystone State(礎石の州)という別名を持っている。
最も堅牢かつ美しい鉱物であるダイヤモンドと、自分にとってのkeystoneである妻の名前。大迫忍オーナーが才媛に与えたダイヤモンドビコーとは、そういう名だった。
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