本物の輝き
日本調教馬の海外遠征史でも異彩を放っているのは、1967年にブラジルに遠征しサンパウロ大賞典を走ったハマテッソだろう(結果は11着)。今では当たり前のように行われるヨーロッパ遠征は、平地馬としては69年のスピードシンボリが初めてであり、ハマテッソはそれに先駆けて遥か南米で蹄跡を残したわけである。騎乗した中神輝一郎騎手が帰路に姿を消すという怪事件のオマケ付きだった。
ハマテッソの父*テッソは重賞タイトルすらなかった中庸馬だった。イギリスから種牡馬として輸入されたのはひとえに、母系がLady Josephine~Mumtaz Mahalというスピード革命の血脈であり、*テッソの母Tessa Gillian自身がRoyal Chargerの全妹という背景に拠るものと考えてよかろう。
ところでそのTessa Gillianの名が、今年のエプソムでは脚光を浴びることになった。信じがたい末脚でエプソムの坂を駆け抜けて英ダービー馬となったGolden Horn、その6代母こそTessa Gillianである。
そもそもTessa Gillianは、Golden Hornの馬主アンソニー・オッペンハイマー氏の父フィリップが1965年にHascombe Stud(ハスクームスタッド)を購入した際、共に手に入れた繁殖牝馬の1頭だったそうだ。以降この牝系の血は連綿とHascombe Studで受け継がれ、On the House(1000ギニー)やRebecca Sharp(コロネーションC)、Mystic Knight(英ダービートライアル)などの活躍馬を排出してきた。
アンソニー・オッペンハイマー氏はその名から推察されるように、オッペンハイマー財閥の一員である。19世紀後半にダイヤモンドや金の採掘事業で頭角を表し、後に南アフリカのデビアス社を支配下に置いて世界のダイヤモンド流通を牛耳ることになるのが、ドイツ出身のアーネスト・オッペンハイマー卿。そのアーネストにはオットーという弟がいたが、そのオットーの息子がフィリップ・オッペンハイマー卿であり、そしてフィリップの息子が今年英ダービー馬の馬主という名誉を浴したアンソニーというわけだ。
フィリップ・オッペンハイマー卿は実業家と同時に馬主・生産者としても有名であったが、それだけでなく、デビアス社の資金を競馬産業のサポートに向けた立役者としても記されるべきだろう。デビアス社はフィリップ・オッペンイマー卿の尽力によりヨーロッパ競馬真夏の大一番である「キングジョージ」のスポンサーとなり、1975年から同社がスポンサーを降りる2006年までの間、レースの名称は「キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス」とされたのだった。
さて、Golden Hornである。3代母がRoyal Charger≒Tessa Gillianの全兄妹クロスを持ち、そこからNureyevを2本入れたのが母の「黄金の矢」という意味のFleche D’Or。そこに自身はマイラーでありながら、ときおりシザスタや*ウイジャボードなどの満塁ホームランをかっ飛ばす迷?種牡馬Cape Crossという配合だ。ダービーの勝ちっぷりを観る限りGolden Hornの強さはメッキではなく本物であり、これからどのような輝きを見せてくれるのか楽しみである。
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