趣き深い安田記念馬
人名というヒントだけで言えば、その由来はルパンを産みだしたモーリス・ルブランかもしれないし、モンマルトルに眠る画家モーリス・ユトリロかもしれない。またはキックボクサーのモーリス・スミスや陸上選手のモーリス・グリーンだって可能性はある。父が「銀幕の英雄」であることを踏まえれば、同性愛を描いた映画モーリスか、あるいはフランスの映画監督であるモーリス・ピアラあたりが有望だろうか。
安田記念のモーリスは先行策から堂々としたレース運びでG1タイトルを手中に収めた。もともと新馬戦の勝ちっぷりから期待が大きかった同馬だが、堀厩舎に転厩してからの快進撃はお見事の一言である。
モーリスにかぎらずスクリーンヒーロー産駒のスピード感というのはどうもスクリーンヒーロー→グラスワンダーと遡上するRobert系のそれには思えず、巷間いわれるようにダイナアクトレス的な資質なのだろうというのが私の着地点でもある。G1こそ手が届かなかったダイナアクトレスだが、今から30年近く前に記録したマイル1分32秒2という時計は、驚異的と言えよう。
一方でモーリスの母系はメジロ牧場の全盛期を支えた一族で、女傑メジロドーベルを筆頭にメジロヘンリー(京都記念)やメジロボアール(阪神大賞典)などが出ている。*モガミを父に持つ牝馬メジロモントレーもその一頭であり、古馬になってから日刊スポーツ賞金杯、アルゼンチン共和国杯、AJCCと中長距離の重賞を3勝した。いずれも歴戦の牡馬を後方から豪快に差しきるという競馬は印象深く、ビギナーだった筆者の記憶にも鮮烈に刻まれている。
メジロモントレーには*フィディオンと*モンタヴァルという気の荒さで名を馳せた種牡馬が入っており、それがモーリスに危うい気性を伝えているのかもしれない。それと同時にメジロ的な「重石」がG1を勝ちきる最後の後押しになったのだろうか。そんな想像を巡らせることが、今は無きメジロ牧場へのささやかなリスペクトでもあるのだ。
いずれにせよ、メジロ牧場の*デヴォーニア(メジロボサツの祖)と社台ファームの*マジックゴディス(ダイナアクトレスの祖)との邂逅によって産まれたモーリスは、ディープインパクトとはまた違った文脈で「近代日本競馬の結晶」とも表現しうる、なかなかの趣の深い存在であろう。
ところで個人的にモーリスの馬名由来は、生物物理学者として活躍したモーリス・ウィルキンスなのではと妄想している。ウィルキンスは、現在では常識とされているDNAの二重螺旋構造と遺伝のメカニズムを推定したことでノーベル生理学・医学賞を受賞(1962年)したのだが、そのときの共同研究者のひとりが、フランシス・クリック。そう、フランシスとモーリスなのである。
【6/9追記】
・・・・とこんなエントリを書いたわけだが、すでに某スポーツ紙でバレエ振付師のモーリス・ベジャール氏であるとタネ明かしがされていたようだ。もう少し想像の世界を楽しみたかったものだ(苦笑
| 固定リンク
« パブコメしました | トップページ | 本物の輝き »
「馬*血統」カテゴリの記事
- オセアニアで咲いた薔薇(2018.02.25)
- もう一つの里帰り(2017.12.31)
- 塗り重ねられたもの(2017.12.23)
- 山野浩一さんのこと(2017.07.22)
- 気まぐれな間欠泉(2017.02.14)
「馬*その他」カテゴリの記事
- 歴史を伝えるもの(2022.09.04)
- 108年後の帰還(2021.09.18)
- Superb in Rosesの謎(2019.02.23)
- 星明かりは見えずとも(2)(2019.01.04)
- 星明かりは見えずとも(1)(2019.01.03)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント