曲がりくねった流れの先
来春に定年を迎える松田博資調教師にとって、ラストインパクトは文字通り最後の有馬記念出走となった。ベガやアドマイヤドン、ブエナビスタなど数多の活躍馬を輩出した功績は、その独特の風貌と共に競馬ファンの記憶に深く刻まれている。
その有馬記念を制したのは、スクリーンヒーロー産駒のゴールドアクター。同じ父を持つモーリスともども、今年に入って無敗でカテゴリーの頂点まで駆け上がったその成長力には目を見張るものがある。
ゴールドアクターは居城要氏(北勝ファーム)のオーナーブリード馬で、この母系と居城氏との出会いはゴールドアクターの祖母ハッピーヒエンまで遡る。ハッピーヒエン自身は1戦して未勝利に終わっているが、繁殖入りしてつけられたのが北勝ファームのご近所に繋養されていた*キョウワアリシバだった。底を見せぬまま種牡馬となっていた*キョウワアリシバとの配合は実を言えば、障害馬をつくるのが目的だったのだという。
ヘイロンシンと名付けられた牝馬は実際に障害戦で活躍し、2003年の阪神JSでも掲示板に乗っているのだから、生産者としての狙いは結実したと言ってもよいのだろう。
引退繁殖入りしたヘイロンシンにスクリーンヒーローを配して産まれたのがゴールドアクターというわけだが、この選択もまた「障害馬をつくろうと思って」という。
ハッピーヒエンは更に遡ると、*ミアンダーという輸入繁殖に行き着く。*ミアンダーとトサミドリの仔トサクインがゴールドアクターの4代母にあたるのだが、トサクインは桜花賞にも出走(2番人気で7着)した後に障害入りして11勝をあげている。その後、「ブゼン」の冠で有名な上田家を経て居城氏のもとへとやってきたボトムライン。そこに無尽のスタミナと同時に障害レースへの親和性があることを知ったうえでの*キョウワアリシバ→スクリーンヒーローという累代なのだとしたら面白いものだ。そしてその結果が中山大障害ではなく有馬記念という舞台で花開いたのだから、水の流れのごとく血の行き先は分からない。そう、ミアンダー(meander)とは「曲がりくねって流れる」という意味だ。
そしてこの有馬記念、松田博資師にとっては「ラスト」であったのと同時に、「ファースト」を思い起こさせる感慨深いレースにもなったに違いない。なぜなら、1964年5月17日、ジョッキーとして念願の初勝利をあげた松田博資騎手の騎乗馬こそ、ゴールドアクターの4代母トサクインだったからだ。
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