変える勇気と変えない強さ
ついに、なのか。やっと、なのか
ルメールの見事な騎乗に導かれてレイデオロが先頭でゴールを通過し、藤澤和雄調教師がついに表彰台の上に立つ日が来た。重賞101勝目が念願の日本ダービーである。
ついに、やっと。そんなことをボンヤリと思いながら帰りの電車に揺られていたら、いろいろなことを思い出して涙が出てきた。
初めて競馬場に行った日に走っていたカルチェラタン。
冬の中山に散ったヤマトダマシイの悔恨。
大好きだったシンコウラブリイは初めての重賞勝ち馬だった。
クロフネミステリーの海外遠征は後のタイキシャトルやダンスインザムードの礎。
ゼンノエルシドもシンボリクリスエスもペルーサも応援した。
バウンスシャッセには夢をみさせてもらった。
そんな重賞ウイナーたちはもちろんだけれど、ヒゴノスターやシェルゲームやリアルビジョンやセサロニアンやエルノヴァやアヴニールマルシェのような馬たちにも、負けずそれぞれに鮮やかな思い出がある。
レディブロンドは友人と一緒に選んで出資した馬だった。だからレイデオロの直線は痺れた。その旧友も声を枯らして叫んでいた。
藤澤師がデビューしたころ、彼は異端だった。調教もレース選択もタッグを組む馬主も。その異端はいつの間にか道になり、後に続く若き調教師たちの道標にもなった。その過程にどんな苦労があったか、私は想像することしかできないが、だから低迷する藤澤師を揶揄する声には、内心で悔しさが募ったこともある。
経験を積んだ者が、自身を変えることは勇気と苦痛を伴う。藤澤師はそれまでのやり方に拘らず、有形無形にさまざまなチャレンジを行ったのだろう。
そして藤澤師がデビュー当時から何があっても変えていないものがある。レース後に騎手と愛馬を迎えるときの満面の笑みだ。
たくさんの失敗。もっと走れたはずの馬たち。変えるべきものを変える勇気と、変えざるものを変えない強さ。それがレイデオロに結実した。
そんなことを思っていたら涙が出てきて、「ついに、やっと」は声にはならなかった。
いいダービーだった。おめでとう、レイデオロと藤澤先生!
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