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2017年7月

山野浩一さんのこと

SF作家であり、競馬・血統評論家としてもその名を知られた山野浩一さんが亡くなられた。山野さんで思い出すのは、新橋にあったJRAの「関東広報コーナー」のことだ。競馬にハマり、最も知識に飢えていた1990年ころからの数年、何度その広報コーナーに通っただろうか。資料室で読む昔の『優駿』や出版されていないJRAの資料,、そして山野さんの『伝説の名馬』『サラブレッド血統辞典』、などなど。私には理解が届かないものも多かったが、好奇心の海に漂うかのような心地よさは、今でも忘れえない経験である。

そして久しぶりに「血統理念のルネッサンス レットゲン牧場における系統繁殖の研究」を引っ張り出して読んでいる。山野さんが1986年から『優駿』に連載した記事で、「世界規模の空間によって構成される」アメリカ式馬産と対照的に「歴史を通じて時間的に展開する」ドイツ式馬産の理念と実践を丁寧に紹介したこのテクストは、一部マニアに多大な影響を与えたことでも知られる。山野さんの訃報を受けて望田潤さんと話していたら「血統オタの多くをドイツ血統オタにさせたすごい読み物」と評されていたが、確かにそのとおりだ。

その連載第2回では、レットゲン牧場の牝系の一つとして、ハンガリーが誇る無敗馬キンツェムに遡る「Wライン」が紹介されている。1936年生まれのヴァッフェナルトを中興の祖として戦後多くの名馬を産んだ牝系だが、記事中で紹介されているドイツ1000ギニー馬ウエルプローヴドの末裔であるヴィントシュトースが、今年のドイツダービーを勝った。

ウエルプローヴド(Well Proved)はドイツ式馬産の「良き証明」であると山野さんは文中で補足しているが、その言葉はそのまま、競馬評論・血統評論のジャンルに篝火を掲げ続けた山野浩一さんの偉大なる功績に捧げたいと思う。

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