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自信とプライド

天皇賞の前日、橋田厩舎ファンの友人と並んで、ポツポツ降り始めた雨に濡れる府中の芝コースをスタンドから眺めていた。秋華賞でディアドラを勝利に導いたルメールの騎乗は今年のベストライドだったね、そんな話をしていた私だが、まさか翌日それを凌駕するようなシーンを見ることになるとは思ってもいなかった。

あの天皇賞で見せたユタカの騎乗には、久しぶりに彼の「勝負師」としての顔を見た想いだった。イチかバチか忌避されていた内を突くのもアリだというのは言うが易しで、大舞台の1番人気に乗ってそれをやってのけるには、経験と技術と覚悟が必要だ。(もちろんそれに応えるキタサンブラックの強さがあってこその勝利である)

インタビューでは冗談まじりに「負けたら馬場のせいにしようと思っていました」と言ってのけたが、個人的にはそこにユタカの強烈な自信とプライドを感じた。そして爽やかな笑顔とは裏腹なエグい騎乗を連発していた90年代の彼を思い出したのだった。

とはいえユタカが、府中で砂を噛むような経験を多くしてきたのもそのころだ。
90年のダービーでは皐月賞馬ハクタイセイに騎乗して勝利が期待されたが、馬場の悪いコース取りを強いられ5着に敗れた。3コーナーで内をわざと空けたアイネスフウジン中野騎手の罠に嵌ったのだ。

91年の天皇賞(秋)は今年とおなじ不良馬場。圧倒的な人気を集めたメジロマックイーンだったがスタート直後に内側へと斜行し、18着へと降着となった。制度が導入された年にG1の一番人気馬が降着となったことで、府中には罵声が飛び交い、メジロの北野ミヤオーナーがJCと有馬のボイコットを示唆するなど、大荒れとなった。

今年のキタサンブラックの勝利は、「府中3コーナーのコース取り」「不良馬場の天皇賞」という若かりしころ解けなかった宿題に、48歳となったユタカが出した見事な回答だった、と上記の両レースを現場で見ていた私には思えてしまう。

そしてもうひとつ、キタサンブラックが最内から先頭に並びかけてファンを沸かせた4コーナー。20年前のあの場所、サイレンススズカが残した悲しみは消えないけれど、あの悔恨もまたユタカの強烈な自信とプライドの一部になっているだろう。

前日、橋田ファンの友人とサイレンススズカのことは話さなかった。悲しみが姿を変えた何かを想いながら、ただぼんやり府中の4コーナーを眺めていただけだ。

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