もう一つの里帰り
朝日杯FSで2番人気に推されたダーレーのタワーオブロンドン。初めてのマイルで3着に敗れたものの、今後スプリントからマイル路線での躍進が期待できるスピードの持ち主であるのは間違いない。
タワーオブロンドンの祖母*シンコウエルメスはかつて同じ藤澤和雄厩舎に所属した牝馬だった。Margarethen牝系に属し、兄に*ジェネラス(英ダービー)やオースミタイクーン(マイラーズC)、姉にImagine(英オークス)を持つという絵に描いたような良血馬。藤澤師と「シンコウ」の安田オーナーは千代田牧場の飯田正剛社長と共にアイルランドまでこの牝馬を買いに行ったそうで、競走馬以上に繁殖牝馬としての価値に期待していたことは想像に難くない。
しかし*シンコウエルメスはデビュー戦後の調教中に故障して引退。命すら危ぶまれる重症を負ったエルメスを藤澤師らが尽力して救い、その血が繋がったというエピソードは、マスコミでも紹介されていたから知る人も多いだろう。
安田オーナーはその後馬主から撤退することになるが、*シンコウエルメスのポテンシャルは見事に証明されつつある。同馬が日本で産んだエルメスティアラは後に皐月賞馬ディーマジェスティを産んだ。そして海外に渡った後の産駒*スノーパインがタワーオブロンドンの母になったわけで、藤澤厩舎にとっては感慨深い里帰りということになる。
ところで*シンコウエルメスの5番目の仔は、Lake Toyaという名前の牝馬である。北海道の洞爺湖のことだ。英仏の中距離戦で4勝を挙げたLake Toyaはダーレーの下で繁殖入りし、その産駒たちにはNaruko(鳴子)、Hokkaido(北海道)、Lake Hamana(浜名湖)、Sobetu(壮瞥)といった日本の地名が馬名として与えられているのがおもしろい。Dubawi産駒のSobetsuは17年のサンタラリ賞(仏G1)を制して、ダーレー軍団の大きな戦力となっている。
そしてNarukoの仔にあたるIn the spotlight(牝・父Exeed and Excel)は繁殖としてタタソールズ12月セールに上場され、13万ギニーでレイクヴィラファームに落札されている。レイクヴィラが同馬を購入した理由がまさか洞爺湖つながりではあるまいが、馬名の旅路という意味で言えば、In the Spotlightは祖母Lake Toyaの地に里帰りしたとも言えよう。洞爺湖から数多の名馬を産んだメジロ牧場の名はすでに無くとも、その志を継いた牧場へと。
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