塗り重ねられたもの
有馬記念前日の風物詩となっている中山大障害は、オジュウチョウサンがゴール前で差し切り、障害重賞8連勝を飾った。絶対王者を負かしにいったアップトゥデイトの逃げと相まって、「固唾をのむ」という表現がぴったりの素晴らしいレースだった。
オジュウチョウサンの走破時計はシンボリモントルーが1991年12月21日に中山大障害で樹立したコースレコードを実に26年ぶりに塗り替えるものだ。シンボリモントルーは同じ馬主の一番人気シンボリクリエンスを競り落としての勝利で、当時障害で猛威を奮っていた種牡馬*モガミ産駒である。
一方の阪神ではイスラボニータが引退レースを見事に差し切っている。パドックのカメラ目線や、ネコ科を彷彿とさせる独特の走法で人気を集める同馬だけに、喜んだファンも多かっただろう。
そしてイスラボニータも1994年にサクラバクシンオーがスワンSで叩き出した1分19秒9のコースレコードを23年越しで更新したことになる。レースはスプリント界の絶対王者サクラバクシンオーをマイルの女王ノースフライトが追うという熱い展開で、その結果1400Mで1分20秒を切るという、当時としては衝撃の時計が誕生したのだった。
本邦の競馬において、幾多の名勝負を生んできたシンボリとサクラの冠。この2つのレコードタイムが同日に更新されたことは、90年代の競馬で育った者として、「やっと」なのか「ついに」なのか、非常に感じ入るものがある。
それは古びた想い出がサンデーサイレンスの孫に「塗り替えられた」といった類の感情ではない。ユーワフォルテ(オジュウの祖母の全兄、5連勝で重賞制覇も底を見せず引退)や、エイシンバーリン(イスラの母父Cozzene産駒でも随一の快速馬)などの血統表を眺め、そしてもう一度今年の大障害と阪神Cの映像を見返すとき、「塗り重ねられた」ことによる物語の豊穣を感じるのである。
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