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風は吹いていた

11月とは思えない麗らかな日差しと、競馬場とは思えない奇妙な静けさ。そして吹き付ける強風を、場内の実況アナウンスが伝えていた。

コロナ禍の中、府中(東京競馬場)の指定席が当選したので臨場してきた。

アイネスフウジンの熱狂のダービーから始まり、トウカイテイオー、サンデー旋風、エルコンドルパサー、サイレンススズカ、ディープインパクト、ウオッカ・・・・自分にとって府中は競馬の原点であり、現在地でもあり、もしかしたら未来かもしれない。

数え切れない出会いと別れを経験したここ府中でも、初めてだった。枯れ葉が風に流れてゆく音が聞こえるほどの静寂だ。

足りないものは、人間の熱だ。G1で浮かれるオイオイ勢ではなく、ひたすら競馬新聞を凝視して馬券を買い、「そのままっ」だの「よしデキた!」だの叫ぶおじさんの熱だ。競馬場に来てホッとするのは、そういった人間のどうしようもない性(さが)を目の当たりにすることができるから、なんだ。

紙馬券もいい。当たっていればなおいい。

府中の街並みも移り変わるが、変わらないものもこの風景にはある。きっと。

競馬場には光と影がある。残酷なまでに、美しいほどに。勝者と敗者を見つめるのもまた避けられぬ人間の営みなのだろう。

旧友と立ち食い蕎麦をすすり、馬券の健闘を祈りあい、別れた。

最終レースは、府中も阪神も金子だった。やはり競馬は金子だった。

風は相変わらず強かったが、それが向かい風なのか追い風なのかは自分次第なののかもしれない。夕日に浮かび上がる富士山のシルエットは得も言われぬ美しさで、またこの場所で幾多の素晴らしい競馬が繰り広げられることを願いながら家路についた。

また来るよ。

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